滝本資料16 「無差別大量殺人行為を行った団体の規制に関する法律」 1999.12.3成立、同月29日施行 

目次
 第一章 総則(第一条―第四条)
 第二章 規制措置(第五条―第十一条)
 第三章 規制措置の手続(第十二条―第二十八条)
 第四章 調査(第二十九条・第三十条)
 第五章 雑則(第三十一条―第三十七条)
 第六車 罰則(第三十八条―第四十三条)
 附則

   第一章 総則
 (目的)
第一条 この法律は、団体の活動として役職員(代表者、主幹者その他いかなる名称であるかを問わず当該団体の事務に従事する者をいう。以下同じ。)又は構成員が、例えばサリンを使用するなどして無差別大量殺人行為を行った団体につき、その活動状況を明らかにし又は当該行為の再発を防止するために必要な規制措置を定め、もって公共の安全の確保に寄与することを目的とする。

 (この法律の解釈適用〉
第二条 この法律は、国民の基本的人権に重大な関係を有するものであるから、公共の安全の確保のために必要な最小限度においてのみ適用すべきであって、いやしくもこれを拡張して解釈するようなことがあってはならない。

 (規制の基準〉
第三条 この法律による規制及び規制のための調査は、第一条に規定する目的を達成するために必要な最小限度においてのみ行うべきであって、いやしくも権限を逸脱して、思想、信教、集会、結社、表現及び学問の自由並びに勤労者の団結し、及び団体行動をする権利その他日本国憲法の保障する国民の自由と権利を、不当に制限するようなことがあってはならない。
2 この法律による規制及び規制のための調査については、いやしくもこれを濫用し、労働組合その他の団体の正当な活動を制限し、又はこれに介入するようなことがあってはならない。

(定義)
第四条 この法律において「無差別大量殺人行為」とは、破壊活動防止法(昭和二十七年法律第二百四十号)第四条第一項第二号へに掲げる暴力主義的破壊活動であって、不特定かつ多数の者を殺害し、又はその実行に着手してこれを遂げないもの(この法律の施行の日から起算して十年以前にその行為が終わったものを除く。)をいう。
2 この法律において「団体」とは、特定の共同目的を達成するための多数人の継続的結合体又はその連合体をいう。ただし、ある団体の支部、分会その他の下部組織も、この要件に該当する場合には、これに対して、この法律による規制を行うことができるものとする。

   第二章 規制措置
 (観察処分)
第五条 公安審査委員会は、その団体の役職員又は構成員が当該団体の活動として無差別大量殺人行為を行った団体が、次の各号に掲げる事項のいずれかに該当し、その活動状況を継続して明らかにする必要があると認められる場合には,当該団体に対し、三年を超えない期間を定めて、公安調査庁長官の観察に付する処分を行うことができる。
一 当該無差別大量殺人行為の首謀者が当該団体の活動に影響力を有していること。
二 当該無差別大量殺人行為に関与した者の全部又は一部が当該団体の役職員又は構成員であること。
三 当該無差別大量殺人行為が行われた時に当該団体の役員(団体の意思決定に関与し得る者であって、当該団体の事務に従事するものをいう。以下同じ。)であった者の全部又は一部が当該団体の役員であること。
四 当該団体が殺人を明示的に又は暗示的に勧める綱領を保持していること。
五 前各号に掲げるもののほか、当該団体に無差別大量殺人行為に及ぶ危険性があると認めるに足りる事実があること。
2 前項の処分を受けた団体は、政令で定めるところにより、処分が効力を生じた日から起算して三十日以内に、次に掲げる事項を公安調査庁長官に報告しなければならない。
 一 当該処分が効力を生じた日における当該団体の役職員の氏名、住所及び役職名並びに構成員の氏名及び住所
 二 当該処分が効力を生じた日における当該団体の活動の用に供されている土地の所在、地積及び用途
 三 当該処分が効力を生じた日における当該団体の活動の用に供されている建物の所在、規模及び用途
 四 当該処分が効力を生じた日における当該団体の資産及び負債のうち政令で定めるもの
 五 その他前項の処分に際し公安審査委員会が特に必要と認める事項
3 第一項の処分を受けた団体は、政令で定めるところにより、処分が効力を生じた日から処分が効力を失う日の前日までの期間を三月ごとに区分した各期間(最後に三月未満の区分した期間が生じた場合には、その期間とする。以下この項において同じ。)ごとに、当該各期間の経過後十五日以内に、次に掲げる事項を、公安調査庁長官に報告しなければならない。
 一 当該各期間の末日における当該図体の役職員の氏名、住所及び役職名並びに構成員の氏名及び住所
 二 当該各期間の末日における当該団体の活動の用に供されている土地の所在、地積及び用途
 三 当該各期間の末日における当該団体の活動の用に供されている建物の所在、規模及び用途
 四 当該各期間の末日における当該団体の資産及び負債のうち政令で定めるもの
 五 当該各期間中における当該団体の活動に関する事項のうち政令で定めるもの
 六 その他第一項の処分に際し公安審査委員会が特に必要と認める事項
4 公安審査委員会は、第一項の処分を受けた団体が同項各号に掲げる事項のいずれかに該当する場合であって、引き続き当該団体の活動状況を継続して明らかにする必要があると認められるときは、その期間を更新することができる。
5 第三項の規定は、前項の規定により期間が更新された場合における報告について準用する。この場合において、第三項中「処分が効力を生じた日から」とあるのは、「期間の更新が効力を生じた日から」と読み替えるものとする。
6 公安調査庁長官は、第二項又は第三項(前項において準用する場合を含む。)の規定による報告を受けたときは、その内容を速やかに文書で警察庁長官に通報するものとする。

  (観察処分の取消し)
第六条 公安審査委員会は、前条第一項又は第四項によってした処分について、当該団体の活動状況を縦続じて明らかにする必要がなくなったと認められるときは、これを取り消さなければならない。
2 前条第一項又は第四項の処分を受けた団体は、公安審査委員会に対し、前項の規定による当該処分の取消しを促すことができる。

(観察処分の実施)
第七条 公安調査庁長官は、第五条第一項又は第四項の処分を受けた団体の活動状況を明らかにするため、公安調査官に必要な調査をさせることができる。
2 公安調査庁長官は、第五条第一項又は第四項の処分を受けた団体の活動状況を明らかにするために特に必要があると認められるときは、公安調査官に、同条第一項又は第四項の処分を受けた団体が所有し又は管理する土地若しくは建物に立ち入らせ、設備、帳簿書類その他必要な物件を検査させることができる。
3 前項の規定により立入検査をする公安調査官は、その身分を示す証票を携帯し、関係者に提示しなければならない。
4 第二項の規定による立入検査の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない。

 (再発防止処分)
第八条 公安審査委員会は、その団体の役職員又は構成員が当該団体の活動として無差別大量殺人行為を行った団体が、第五条第一項各号のいずれかに該当する場合であって、次の各号のいずれかに該当するときは、当該団体に対し、六月を超えない期間を定めて、次項に掲げる処分の全部又は一部を行うことができる。同条第一項又は第四項の処分を受けた団体について、同条第二項若しくは第三項の規定による報告がされず、若しくは虚偽の報告がされた場合、又は前条第二項の規定による立入検査が拒まれ、妨げられ、若しくは忌避された場合であって、当該団体の無差別大量殺人行為に及ぶ危険性の程度を把握することが困難であると認められるときも、同様とする。
 一 当該団体の役職員又は構成員が、団体の活動として、人を殺害し若しくは殺害しようとしているとき、人の身体を傷害し若しくは傷害しようとしているとき又は人に暴行を加え若しくは加えようとしているとき。
 二 当該団体の役職員又は構成員が、団体の活動として、人を略取し若しくは略取しようとしているとき又は人を誘拐し若しくは誘拐しようとしているとき。
 三 当該団体の役職員又は構成員が、団体の活動として、人を監禁し又は監禁しようとしているとき。
 四 当該団体の役職員又は構成員が、団体の活動として、爆発物、毒性物質若しくはこれらの原材料若しくは銃砲若しくはその部品を保有し若しくは保有しようとしているとき又はこれらの製造に用いられる設備を保有し若しくは保有しようとしているとき。
 五 当該団体の役職員又は構成員が、団体の活動として、当該団体に加入することを強要し若しくは強要しようとしているとき又は当該団体からの脱退を妨害し若しくは妨害しようとしているとき。
 六 当該団体の役職員又は構成員が、団体の活動として、殺人を明示的に又は暗示的に勧める綱領に従って役職員又は構成員に対する指導を行い又は行おうとしているとき。
 七 当該団体の役職員又は構成員が、団体の活動として、構成員の総数又は土地、建物、設備その他資産を急激に増加させ又は増加させようとしているとき。
 八 前各号に掲げるもののほか、当該団体の無差別大量殺人行為に及ぶ危険性の増大を防止する必要があるとき。

2 前項の規定により行うことができる処分は、次に掲げるものとする。
 一 いかなる名義をもってするかを問わず、土地若しくは建物を新たに取得し若しくは借り受けることを、地域を特定して、又は特定しないで禁止すること。
 二 当該団体が所有し若しくは管理する特定の土地若しくは建物(専ら居住の用に供しているものを除く)の全部又は一部の使用を禁止すること。
 三 当該無差別大量殺人行為に関与した者又は当該無差別大量殺人行為が行われた時に当該団体の役員であった者(以下「当該無差別大量殺人行為の関与者等」という。)に、当該団体の活動の用に供されている土地又は建物において、当該団体の活動の全部又は一部に参加させ又は従事させることを禁止すること。
 四 当該団体に加入することを強要し、若しくは勧誘し、又は当該団体からの脱退を妨害することを禁止すること。
 五 金品その他の財産上の利益の贈与を受けることを禁止し又は制限すること。

(役職員又は構成員等の禁止行為)
第九条 前条に規定する処分を受けた団体の役職員又は機成員は、団体の活動として、当該処分に違反する行為をしてはならない。
2 前条に規定する処分を受けた団体の役職員又は構成員は、当該処分が効力を生じた後は、次の各号に掲げる行為をしてはならない。
 一 当該団体が前条第二項第一号に規定する処分を受けた場合にあっては、いかなる名義をもってするかを問わず、当該処分により取得し又は借り受けることが禁止された土地又は建物を当該団体の用に供する目的で取得し又は借り受けること。
 二 当該団体が前条第二項第二号に規定する処分を受けた場合にあっては、当該団体の用に供する目的で当該処分により使用を禁止された土地又は建物を使用すること。
 三 当該団体が前条第二項第三号に規定する処分を受けた場合にあっては、当該無差別大量殺人行為の関与者等に、当該処分により参加させ又は従事させることを禁止された当該団体の活動に参加させ又は従事させること。
 四 当該団体が前条第二項第四号に規定する処分を受けた場合にあっては、当該処分により禁止された団体への加入を強要すること若しくは勧誘すること又は当該団体から脱退する行為を妨害すること。
 五 当該団体が前条第二項第五号に規定する処分を受けた場合にあっては、当該団体の利益を図る目的で、当該処分により贈与を受けることが禁止された金品その他の財産上の利益を贈与の目的として受け取ること。

3 当該団体が前条第二項第三号に規定する処分を受けた場合にあっては、当該無差別大量殺人行為の関与者等は、当該処分が効力を生じた後は、同号に規定する処分により参加させ又は従事させることを禁止された当該団体の活動に参加し又は従事してはならない。

 (再発防止処分の取消し)
第十条 公安審査委員会は、第八条によってした処分について、当該処分に基づく禁止又は制限をする必要がなくなったと認められるときは、これを取り消さなければならない。
2 第八条の規定による処分を受けた団体は、公安審査委員会に対し、前項の規定による当該処分の取消しを促すことができる。

 (土地又は建物の使用禁止に関する標章の掲示等)
第十一条 公安審査委員会は、第八条第二項第二号の規定により当該団体が所有し若しくは管理する特定の土地若しくは建物の全部又は一部の使用を禁止する処分をしたときは、当該土地の所在する場所又は当該建物の出入口の見やすい場所に、当該団体が当該土地又は建物について同号の処分を受けている旨を告知する公安審査委員会規則で定める標章を掲示するものとする。
2 公安審査委員会は、前項の規定により標章を掲示した場合において、第八条第一項の規定に基づいて定められた期限が経過したとき又は前条の規定により当該処分を取り消したときは、当該標章を取り除かなければならない。
3 何人も、第一項の規定により掲示した標章を損壊し、又は汚損してはならず、また、当該標章を掲示した土地又は建物に係る第八条第一項の規定に基づいて定められた期限が経過した後又は前条の規定により当該処分が取り消された後でなければ、これを取り除いてはならない。

   第三章 規制措置の手続
 (処分の請求)
第十二条 第五条第一項及び第八条の処分は、公安調査庁長官の請求があった場合にのみ行う。第五条第四項の処分についても、同様とする。
2 公安調査庁長官は、前項の処分を請求しようとするときは、あらかじめ、警察庁長官の意見を聴くものとする。
3 警察庁長官は、必要があると認められるときは、公安調査庁長官に対し、第五条第一項若しくは第四項又は第八条の処分を請求することが必要である旨の意見を述べることができる。

(観察処分にかかる団体の所有または管理する土地・建物に関する書面の提出)
第十三条 公安調査庁長官は、公安審査委員会規則の定めるところにより、第五条第一項又は第四項の処分を請求するとき又はその後において、当該処分に係る団体が所有し又は管理すると認める土地又は建物について、これを特定するに足りる事項を記載した書面を公安審査委員会に提出しなければならない。

 (立入検査等)
第十四条 警察庁長官は、第十二条第二項又は第三項の規定に基づき第八条の処分の請求にかかる意見を述べるために必要があると認められるときは、第五条第一項又は第四項の処分を受けた団体について、相当と認める都道府県警察に必要な調査を行うことを指示することができる。
2 前項の指示を受けた都道府県警察の警視総監又は道府県警察本部長(以下「警察本部長」という。)は、同項の調査を行うために特に必要があると認められるときは、あらかじめ、警察庁長官の承認を得て、当該都道府県警察の職員に、第五条第一項又は第四項の処分を受けた団体が所有し又は管理する土地若しくは建物に立ち入らせ、設備、帳簿書類その他必要な物件を検査させることができる。
3 警察庁長官は、前項の承認をしようとするときは、あらかじめ、公安調査庁長官に協議しなければならない。
4 第二項の規定により立入検査をする都道府県警察の職員は、その身分を示す証票を携帯し、関係者に提示しなければならない。
5 警察本部長は、第二項の規定による立入検査をさせたときは、その結果を速やかに文書で警察庁長官に報告しなければならない。
6 警察庁長官は、前項の報告を受けたときは、その内容を速やかに文書で公安調査庁長官に通報するものとする。
7 第二項の規定による立入検査の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない。

 (処分の請求の方式)
第十五条 第十二条第一項前段の処分の請求は、次に掲げる事項その他公安審査委員会規則で定める事項を記載した請求書(以下「処分請求書」という。)を公安審査委員会に提出して行わなければならない。
 一 請求に係る処分の内容及び根拠となる法令の条項
 一 請求の原因となる事実
2 処分請求書には、請求の原因となる事実を証すべき証拠書類又は証拠物(以下「証拠書類等」という。)を添付しなければならない。

 (意見聴取)
第十六条 公安審査委員会は、第十二条第一項前段の処分の請求があったときは、公開による意見聴取を行わなければならない。ただし、個人の秘密の保護のためやむを得ないと認めるときは、これを公開しないことができる。

 (意見聴取の通知の方式)
第十七条 公安審査委員会は、前条の意見聴取を行うに当たっては、あらかじめ、意見聴取を行う期日及び場所を定め、その期日の七日前までに、当該団体に対し、次に掲げる事項を通知しなければならない。
 一 公安調査庁長官の請求に係る処分の内容及び根拠となる法令の条項
 二 請求の原因となる事実
 三 意見聴取の期日及び場所
2 前項の通知は、官報で公示して行う。この場合においては、公示した日から七日を経過した時に、当該通知が当該団体に到達したものとみなす。
3 当該団体の代表者又は主幹者の住所又は居所が知れているときは、前項の規定による公示のほか、これに通知書を送付しなければならない。

 (代理人)
第十八条 前条第一項の通知を受けた団体(同条第二項後段の規定により当該通知が到達したものとみなされる団体を含む。)は、代理人を選任することができる。
2 代理人は、各自、当該団体のために、意見聴取に関する一切の行為をすることができる。

  (意見聴取の指揮)
第十九条 意見聴取は、公安審査委員会が指名する公安審査委員会の委員長又は委員(以下「指名委員等」という。)が指揮する。
2 指名委員等は、意見聴取の期日の冒頭において、公安調査庁の職員に、請求に係る処分の内容及び根拠となる法令の条項並びに請求の原因となる事実を意見聴取の期日に出頭した者に対し説明させなければならない。
3 指名委員等は、意見聴取の手続を妨げる行為をした者に退去を命ずることができる。

  (意見の陳述及び証拠書類等の提出等)
第二十条 当該団体の役職員、構成員及び代理人は、五人以内に限り意見聴取の期日に出頭して、当該処分を行うことについて意見を述べ、証拠書類等を提出することができる。
2 当該団体の役職員、構成員及び代理人は、指名委員等の許可を得て公安調査庁の職員に対し質問を発することができる。
3 当該団体の役職員、構成員及び代理人は、意見聴取の期日への出頭に代えて、公安審査委員会に対し、意見聴取の期日までに陳述書及び証拠書類等を提出することができる。

 (意見聴取の終結)
第二十一条 指名委員等は、当該団体の役職員、構成員及び代理人の全部又は一部が正当な理由なく意見聴取の期日に出頭せず、かつ、前条第三項に規定する陳述書又は証拠書類等を提出しない場合には、これらの者に対し改めて意見を述べ、及び証拠書類等を提出する機会を与えることなく、意見聴取を終結することができる。
2 指名委員等は、前項に規定する場合のほか、当該団体の役職員、構成員及び代理人の全部又は一部が意見聴取の期日に出頭せず、かつ、前条第三項に規定する陳述書又は証拠書類等を提出しない場合において、これらの者の意見聴取の期日への出頭が相当期間引き続き見込めないときは、これらの者に対し、期限を定めて陳述書及び証拠書類等の提出を求め、当該期限が到来したときに意見聴取を終結することができる。

 (公安審査委員会の決定)
第二十二条 公安審査委員会は、公安調査庁長官が提出した処分請求書及び証拠書類等並びに当該団体の意見及び当該団体が提出した証拠書類等につき審査を遂げた上、次の区分に従い決定をしなければならない。
 一 処分の請求が不適法であるときは、これを却下する決定
 二 処分の請求が理由がないときは、これを棄却する決定
 三 処分の請求が理由があるときは、その処分を行う決定
2 公安審査委員会は、第十七条第二項の規定による公示があった日から三十日以内に、処分の請求に係る事件につき決定をするように努めなければならない。

 (決定の方式)
第二十三条 前条第一項の決定は、文書をもって行い、かつ、理由を付して、委員長及び決定に関与した委員がこれに署名押印をしなければならない。

 (決定の通知及び公示)
第二十四条 第二十二条第一項の決定は、公安調査庁長官及び当該団体に通知しなければならない。
2 前項の通知は、公安調査庁長官及び当該団体に決定書の謄本を送付して行う。ただし、当該団体に代理人がある場合には、当該団体に代えて代理人に決定書の謄本を送付することができる。
3 第二十二条第一項の決定は、官報で公示しなければならない。
4 公安調査庁長官は、第一項の通知を受けたときは、その内容を速やかに文書で警察庁長官に通報するものとする。

  (決定の効力発生時期)
第二十五条 第二十二条第一項の決定は、次の各号に掲げる時に、それぞれその効力を生ずる。
 一 処分の請求を却下し、又は棄却する決定は、決定書の謄本が公安調査庁長官に送付された時
 二 処分を行う決定は、前条第三項の規定により官報で公示した時

  (観察処分の期間の更新の手続)
第二十六条 公安調査庁長官は、第十二条第一項後段の処分の謙求をするときは、更新の理由となる事実その他公安審査委員会規則で定める事項を記載した請求書(以下この条において「更新請求書」という。)を公安審査委員会に提出して行わなければならない。
2 更新請求書には、更新の理由となる事実を証すべき証拠書類等を添付しなければならない。
3 公安審査委員会は、第一項の請求があったときは、当該団体に対し、意見陳述の機会を付与しなければならない。この場合において、意見陳述は、陳述書及び証拠書類等を提出して行うものとする。
4 公安審査委員会は、陳述書の提出期限の七日前までに、当該団体に対し、次に掲げる事項を通知しなければならない。
 一 更新が予定される処分の内容及び更新の根拠となる法令の条項
 二 更新の理由となる事実
 三 陳述書の提出先及び提出期限
5 第十七条第二項及び第三項並びに第十八条の規定は、期間の更新に対する意見陳述について準用する。この場合において、第十七条第二項中「前項」とあり、及び第十八条第一項中「前条第一項」とあるのは「第二十六条第四項」と、同項中「前条第二項後段」とあるのは「第二十六条第五項において準用する第十七条第二項後段」と読み替えるものとする。
6 第二十二条第一項及び第二十三条から前条までの規定は、公安審査委員会が行う期間の更新の決定について準用する。この場合において、第二十三条中「前条第一項の決定」とあり、並びに第二十四条第一項及び第三項並びに第二十五条中「第二十二条第一項の決定」とあるのは「第二十六条第六頃において準用する第二十二条第一項の決定」と読み替えるものとする。

 (処分の取消しの手続)
第二十七条 第二十三条及び第二十四条の規定は、処分の取消しの決定について準用する。この場合において、第二十三条中「前条第一項の決定」とあり、並びに第二十四条第一項及び第三項中「第二十二条第一項の決定」とあるのは「処分の取消しの決定」と読み替えるものとする。
2 処分の取消しの決定は、前項において準用する第二十四条第三頃の規定により、官報で公示した時に効力を生じる。

 (処分の手続に関する細則)
第二十八条 この章に規定するものを除くほか、公安審査委員会における手続に関する細則は、公安審査委員会規則で定める。

  第四章 調査
 (公安調査官の調査権)
第二十九条 公安調査官は、この法律による規制に関し、第三条に規定する基準の範囲内において、必要な調査(第七条第一項の規定に基づく調査を含む。次条において同じ。)をすることができる。

第三十条 この法律に規定する団体規制に関する公安調査官の調査については、前条に規定するもののほか、破壊活動防止法第二十八条から第三十四条までの規定を準用する。

   第五章 雑則
 (国会への報告)
第三十一条 政府は、毎年一回、国会に対し、この法律の施行状況を報告しなければならない。

 (調査結果の提供)
第三十二条 公安調査庁長官は、関係都道府県又は関係市町村(特別区を含む。)の長から請求があったときは、当該請求を行った者に対して、個人の秘密又は公共の安全を害するおそれがあると認める事項を除き、第五条の処分に基づく調査の結果を提供することができる。

 (行政手続法の適用除外)
第三十三条 公安審査委員会がこの法律に基づいてする処分については、行政手続法(平成五年法律第八十八号)第三章の規定は、適用しない。

 (不服申立ての制限)
第三十四条 公安審査委員会がこの法律に基づいてした処分については、行政不服審査法(昭和三十七年法律第百六十号)による不服申立てをすることができない。

 (処分取消しの訴え)
第三十五条 法人でない社団又は財団で第二十二条第一項第三号の決定(第二十六条第六項において準用する場合を含む。)を受けたものは、その名において処分の取消しを求める訴訟を提起することができる。

 (裁判の公示〉
第三十六条 第五条第一項又は第八条の処分を行う公安審査委員会の決定の全部又は一部が裁判所で取り消されたとき(第五条第四項の規定による期間の更新の決定が取り消された場合を含む。)は、公安調査庁長官は、その裁判を官報で公示しなければならない。

 (施行細則)
第三十七条 この法律に特別の規定があるものを除くほか、この法律の実施の手続その他その執行について必要な細則は、法務省令で定める。
2 第十二条第二項及び第三項並びに第十四条第一項、第二項及び第五項の規定により警察庁長官の権限に属する事務を実施するため必要な事項は、国家公安委員会規則で定める。

   第六章 罰則
 (役職員又は構成員等の禁止行為違反の罪)
第三十八条 第九条の規定に違反した者は、二年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。

 (立入検査拒否等の罪)
第三十九条 第七条第二項又は第十四条第二項の規定による立入り又は検査を拒み、妨げ、又は忌避した者は、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

 (標章損壊等の罪)
第四十条 第十一条第三項の規定に違反した者は、五十万円以下の罰金に処する。

 (退去命令違反の罪)
第四十一条 第十八条第三項の規定による命令に違反した者は、三十万円以下の罰金に処する。

 (公安調査官の職権濫用の罪)
第四十二条 公安調査官がこの法律に定める職権を濫用して、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害したときは、三年以下の懲役又は禁錮に処する。

 (警察職員の職権濫用の罪)
第四十三条 警察職員がこの法律に定める職権を濫用して、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害したときは、三年以下の懲役又は禁錮に処する。

  附則
 (施行期日)
1 この法律は、公布の日から起算して二十日を経過した日から施行する。
 (法務省設置法のー部改正)1
2 (見直し) この法律の施行の日から起算して五年ごとに、この法律の施行状況について検討を加え、その結果に基づいて廃止を含めて見直しを行うものとする。

以下、付則3ないし9項は、関連する下記法律の一部改正で煩瑣にすぎるため、ここでは省略します。ー法務省設置法、刑事訴訟法、公安調査庁設置法、公安審査委員会設置法、警察法、法務省設置法、中央省庁等改革のための国の行政組織関係法律の整備等に関する法律


滝本資料15 幻の法人破産の財団の特例等に関する法律
(三次案ー滝本) 1999年10月7日夜作成

第一条 この法律は、無差別大量殺傷行為をなした法人の破産における破産財団の特例を定めるものである。

第二条 この法律において、次の各号にかかげる用語の意義は、それぞれ当該各号の定めるところによる。
1 無差別大量殺傷行為 核爆弾、化学兵器、生物兵器又はこれに類する無差別大量殺人が可能な方法により、不特定かつ多数の者を殺害せんと企て、現に複数の者を一回に殺害した行為をいう
2 特例法人破産 第3条の規定により破産裁判所によって決定された破産をいう。

※「推定規定」であっても、その憲法適合性を示す為に対象破産を極めて限定した。

第三条 破産裁判所は、法人の破産において、次の各号のいずれにも該当すると認めるときは、債権者または当該法人の破産管財人の請求もしくは職権により、特例法人破産とする決定をすることができる。
1 破産法人が無差別大量殺傷行為をなしたこと
2 負債総額が5億円を超えること。
3 異議なき債権額の総額の半額を超える金額が、法人の不法行為による損害賠償債務であり、かつ当該債権者数が50を超えること。
4 破産宣告の後、第5条記載の団体が存在すること。

※「団体」を措定することとし、その認定を破産裁判所におき、その概念を「特例法人破産」とした。団体が残存しているからこそ必要性があり、正義公平の概念から立法事実があるとすべきだからである。
※なんの意味においても、「危険性」は、破産法の特例にとどまる以上、要件としていれる必要はない。

第四条 特例法人破産の決定に対する即時抗告等ありたるときも、特例破産決定の効果は停止しない。

※特例法人破産の決定に対しては、破産決定自体と同じく即時抗告ができるが、それがあっても効果は停止しないこととした。手続規定は破産法の 法律・運用でたりると考えた。

第五条 特例法人破産にあっては、破産法人の目的又はその代表者の破産法人にかかる主義・主張・教義を広め、これを実現することを目的とし、同代表者又はこれを引き継ぐなどとしている者が主宰し、同人らおよび構成員、構成員を指導する者その他の同主義・主張・教義に従う者によって構成される団体の財産も破産財団に属する。
※「属する」とした。法人破産においては、卵の殻とでも例えることのできる「法人の財産」の処理が問題とされるのであるが、法人の財産が不法 行為をしたのではなく、実の部分を含む有機的な結合体が不法行為をしたのであり、これを率直に捕らえれば、大量無差別殺傷行為をした法人に限るとき、団体としての「財産」を破産財団に属するとしても、法人概念の大きな解釈の変更とはならず、もとより憲法違反にはならないと考える。立法による裁量の範囲である。

第六条 特例法人破産のおいては、次の場合、前条に記載の団体の財産と推定する。
1 当該財産の名義が、前条に記載の団体の指導的立場の者にあるとき、またはこれらにその全財産を譲渡しかつ前条に記載の団体の指導監督に服している者であるとき。
2 当該財産の取得原資が、前一号に記載の者にあるとき。
3 当該財産の名義が法人であるときは、当該法人の役員、又は従業員の過半数が、一号に記載の者であるとき。
4 当該財産が、前条記載の団体のために、または第一号に記載の者によって、もっぱら使用されているとき。

※推定の一つに「破産宣告時の構成員」に名義があることを入れる考えもあるが、現団体を措定する以上、現団体の構成員にのみ着眼した。脱会者の社会復帰を妨げない為であり、憲法に違反するおそれもなくしたいからである。脱会している者の名義が、たまたま現団体の財産の中に、脱会している者の名義が残っていることもあろうが、真に脱会している者であれば法の「推定」に定めずとも、破産管財人の請求に喜んで応じよう。
一号の「全財産を譲渡しかつ」というのは、例えばオウム真理教集団における「出家者」のごとき場合である。
在家の者の名義の場合は四号にあたる場合に「推定」される。不動産・預貯金などを考えれば、現実的な議論になる。二号は、他人名義を使用していることが判明したときのために必要である。

第七条 破産裁判所は、債権者集会の議決ありたるときは、特例法人破産の決定を、将来に向けて取り消すことができる。

※特例法人破産の終了の規定である。

第八条 1 国又は地方公共団体の職員は、その職務を遂行するに当たって、本法の破産財団に組み込むべきものと推定される財産の存在を知ったときは、破産管財人に、速やかにその旨を通知しなければならない。
2 破産管財人は、法務、警察、税務、その他の関係行政機関に対し、特例法人破産の申立てに関し、また破産財団に帰属すべき財産の発見、財団の組み入れに関する事務の遂行に関して、必要な協力を求めることができる。
3 前項の規定による協力を求められた関係行政機関は、その求めに応じなければならない。

※構成員の把握、財産の把握については、警察の多大なる協力が必要である。

第九条 この法律に定める特例法人破産の推定規定にかかる訴訟については、破産裁判所の管轄に専属する。

※破産管財人がする大量の訴訟が可能にする為の規定である。

第十条 この法律に定めるもののほか、この法律の実施のために必要な事項は、法務省令で定める。

※委任規定である。警察等の協力するシステムの構築などを委任したい。

第十一条 この法律は、公布の日から施行する。この法律の施行の日において破産手続きを廃止していた法人についてはなお従前の例による。破産手続中の法人についてはこの法律を適用する。

※例えば、オウム真理教の破産は終結しておらず、適用することが可能である。


資料14 オウム真理教被害対策弁護団の
特別2法案外への声明 1999年11月2日午後3時30分


無差別大量殺人をした団体に対する各法律案に関する声明

一、今般、「無差別大量殺人をした団体に対する団体の規制に関する法律案(以下「団体規制法政府案」という)」「特定破産法人の破産財団に属すべき財産の回復に関する特別措置法案(以下「特別措置法案」という)」が国会に提出されたほか、団体規制法政府案に対する民主党案が発表されている。
 これらの各法律は、オウム真理教を対象とすることを念頭に置いて作られたものであることは周知の事実である。法律としての体裁から、対象をオウム真理教のみに限ることができないために、一般的な対象としてせざるを得なかったものである。
 しかるに、法技術的な問題か、あるいは別の意図から出ているのか、適用対象の絞り込みは不十分で曖昧な規定となっており、拡張適用の不安を抱かざるを得ない内容となっている。

二、特別措置法案については、当弁護団においても従前から要請しつづけてきたものであり、犯罪被害者の被害回復のためにも、必要な措置である。
 オウム真理教は、解散命令・破産宣告を受けても、常備しておかねばならないはずの財産関係の書類を提出せずにいる。破産宣告前のオウム真理教の財産は少なくとも数十億円にのぼったはずであるのに、破産手続で明らかになった財産はごくわずかでしかなかった。しかも、一方では常に一定数の専従者を抱え、拠点を確保して賃料を支払い続け、あるいは刑事被疑者被告人に対する莫大な弁護料を支払ってきた。そして、現在では、各地に信者らが不動産を取得し、関連会社が商行為を行い、莫大な資金を得ている。
 このような状況を打開するために、現在の破産制度を改善し、犯罪被害者が破産制度を通じて被害回復を図ることができるようにすることは、必要なことである。
 ただ、前記団体規制法政府案と密接なリンクをしていることについては必ずしも賛成しがたいものである。団体規制法政府案が成立したときに、その手続きを通じて得られた情報を破産管財人が得ることができる制度などはともかく、対象者の定義をもっぱら団体規制法政府案に求めることは問題がある。

三 団体規制法政府案は、一定の要件に該当する団体に対して、観察処分を処することができるものとし、観察処分を受けた団体に対して、一定の報告義務を課し、立ち入り検査ができるものとし、更に一定の行為の禁止の処分を加えることができるようにするものである。
 このような行政処分は、団体行動の自由に一定範囲で制約を加えるものであり、憲法二一条に定める結社の自由そのものを否定するものではないにしろ、一定の範囲で制約を加えるものであって、その規制については厳格な要件が必要である。オウム真理教以外の団体には適用とならないような厳格な絞り込みが必要不可欠である。団体規制法政府案では、このような要件の絞り込みが不十分である。更に、立入調査には事前事後を問わず何もチェックの手続もないなど、憲法の要請する適正手続の保障は不十分である。
 一方、民主党案では、一定の時間により、要件を厳格化し、行為規制を緩和しようとしているが、それは無用のことである。もし、オウム真理教のような団体の行動を規制しようとするならば、時間的制約は意味をなさない。他の方法により、要件の厳格化を図るべきである。

四、このような行為規制によって可能なことは、危険な行為をしないようにするという程度に留まり、団体の消滅には必ずしもつながらないということは、銘記しておく必要がある。行為規制を強めれば、強めるほど、残る構成員は狂信的となり、地下化していくということは、歴史的事実である。地球の歴史上、国家の弾圧によって消滅した宗教はない。オウム真理教の構成員を、行為規制に基づく取り締まりによって刑罰を科しても、却って構成員の反発を生むこととなってしまいかねないのである。
本法案のような規制を行うとしても、一方では信者・元信者の社会復帰の方策は必要不可欠である。少なくとも、本法案による規制によって、逆に社会復帰しようとする元信者たちの障害となってはならないのであり、慎重な運用が望まれる。

五、私たち弁護団は、改めてオウム真理教による全ての被害救済のために全力を尽くす固い決意であることを確認すると共に、特別措置法政府案及び団体規制法政府案(ないし民主党案)の修正を求めるものである。

 一九九九年一一月二日 (午後三時三〇分)

オ ウ ム 真 理 教 被 害 対 策 弁 護 団

事務局長弁護士  小 野 毅


資料13 滝本太郎の纏めたコメントーーー1999年11月1日 夜

 無差別大量殺人行為を行った団体に対する特別二法の国会提出にあたって

一 はじめに
 明日、内閣は、国会に「無差別大量殺人をした団体に対する団体の規制に関する法律案(以下「団体規制法案」という)」を提出し、与党各議員は、無差別大量殺人行為による被害救済のために「特定破産法人の破産財団に属すべき財産の回復に関する特別措置法案」(以下「特別措置法案」という)を提出する予定である。
 オウム真理教こそ(この名称の使用権は破産管財人にあるので、以下「オウム集団」という)このオウム集団こそ、右各法律が適用さるべき団体であることは、論を俟たない。

二 オウム集団の本質
 オウム集団は、麻原彰晃こと松本智津夫被告のいう身勝手至極な「救済」をなし遂げるためには手段を選ばないという教えに従い、薬物まで多用して、組織的に数多くの極悪非道の犯罪を犯し、わけても核爆弾にも匹敵する化学兵器サリンを使用して、松本市内と東京地下鉄において大量無差別殺人をした集団である。

 現在においては、構成員から「最終解脱者」と信じられている同人からの指示が不可能であるが故に、殺人や暴力主義的破壊活動はしていないものの、オウム集団は、一連の事件を総括もせず、当時の各種事件の実行犯をうけいれており、事件を直視できない構成員もまだ多く残存している以上、なんら本質は変わっていないとするほかはない。

三 特別措置法について
 同法については、私も、そのできえる限り効力ある法律を成立させるために、各所への要請と調整を重ねてきたところである。宗教法人オウム真理教は破産したが、被害に遭った人達への配当は二三%にもみたない。オウム集団は、破産前後の資産の動きを見てもその資産を利用したと推定されるのに、会計帳簿をついに提出せず、現行破産法での追及を相当に逃れているとみられる。
一方で構成員は大幅に減少したものの同じ松本被告の教えにしたがってなんの反省もなく活動し、そのための転化物たる資産を確保している。
 かようなとき、被害者の民事的な救済のため、少しでもその心をいやすために、破産法の特例の位置をもつ右特別措置法案が制定されるべきは当然である。これは同時に、本質の変わっていないオウム集団を、その財政面から崩潰させるものでもある。
 法解釈の遡及しないとの原則に違反するとのごく一部の声もあるが、転化物についての「推定」と言う形式をとる民事のそれも手続法であって、オウム集団の破産手続が終了していない以上、この法案も、これをオウム集団の破産手続に適用することも、問題はない。
 是非とも成立させることを希望する。

四 団体規制法案について。
 右法案には、無差別大量殺人行為の定義に適当でない点がある。すなわち、団体規制法案は、オウム集団が化学兵器サリンまでも使用して無差別大量殺人行為をしたが故に世界を震撼させ、かかる団体を的に対応しようとするからこそ許される規制であるのに、無差別大量殺人の使用武器をなんら限定することがなく、更にはまったく未遂の事案であっても適用できるように規定されており、立法事実を超えているものである。
 およそ、オウム集団を念頭においてかかる法律が立案されたのは、化学兵器を使った無差別大量殺人を現実にしたからであり、その前提事実があるからこそ、再発防止のための広範囲な刑事処罰をもってする行為規制が、それも迅速な処分が許される可能性があり憲法上も許容され得るのである。この点は、国会の審議において是非とも修正されなければならない。
 また、思想とくに死後の世界までも措定する宗教思想が背景にある場合、団体規制は決して最終的な解決にならないものであり、「再発防止処分」における刑罰とその執行のための逮捕等は、そのマインド・コントロールを溶くことをしないままの身柄拘束にすぎないときは、信仰をかためることともなる。結局、組織は見えずとも存在するという事態になり得るのであって、逮捕と刑罰を担保とする団体規制は、本来、稚拙な手段であることを忘れてはならない。
 しかし、オウム集団における近時の増長と各地の住民の不安、これまでの経緯、今も脈々として存在する特有のタントラ・ヴァジラヤーナ思想に基づいて、抽象的ながら認められる危険性には対応しなければならない。またこの団体規制法案において「観察処分」を受けた団体においてのみ、前記特別措置法が機能できることも見逃しえない。
 団体規制法案については、これらの点が十分に議論され、無差別大量殺人の定義つけなど適切な修正をされることを希望する。

五 運用について
 団体規制法は、いうまでもなく、その運用も適正かつ効果的にすべきであって、一律形式的に適用して次々と逮捕するとか、乱用するとかがあってはならない。とくに、先年の破壊活動防止法の団体規制の適用請求のごとく要件に合致しないのに適用しようとしてはならないし、同法におけるように市区町村の発行する身分証明に反映させることとし、脱会後の社会復帰を妨げることとなりえた愚も犯してはならない。
 特別措置法案は、破産管財人が、各地のさまざまな形で、変化しながら存在する転化物たるその団体の財産の把握できねば実効性がないのであり、公安調査庁長官は警察庁長官から提供された情報を含めて、全面的に協力すべきである。裁判所においては、措置法の「推定」の趣旨を尊重しかつ迅速に審理されるよう希望する。

六 オウム問題の解決に向けて
 オウム集団を崩壊させる王道は、各構成員が、オウム集団の犯罪を直視し、教祖と集団の言動に著しい矛盾があることに気付き、さまざまな喜びと苦渋を体験する現実社会に戻る気力を持たせて、脱会のうえ社会復帰をさせることであり、ここに至らなければ、オウム問題は解決に至らない。
 右各法律が制定・施行されてしばらくすれば、社会からオウム集団の組織は見えなくなるだろう。在家の者を中心として何割かは組織から離れるであろう。しかし、残る信者はより頑なになろうし、組織から離れた者も、教祖松本智津夫への帰依と彼によりシステム化されたマインド・コントールから容易に離れられない。これらの解決がなされねばオウム集団が真に崩潰したとはいえず、被害者の痛みも癒えない。
 いうまでもなく、破壊的カルト集団におけるマインド・コントロールのテクニックは非常に優れており、その構成員になることは誰にとっても決して他人事ではない。対応も、法の制定と運用が主たるものではない。
 これまで、各構成員の家族は、本人の心情と対応策を理解して、カウンセラーの力を借りるなどして、機会を得て話し合いをすべく努力し続けてきた。元信者の少なからずは、現役信者との激しい、しかし心を通わせるせめぎあいのなかで話し合いを重ねてきた。多くの家族らは、1995年3月の強制捜査の開始した後にできた信者本人との細い橋を太くすべく努力してきた。これらにより、すでに相当数が脱会してきており、うち相当数が社会復帰を果たしているのである。
 これらのことが、今後とも続行できるよう、各所での理解を賜りたいと思う。今後、右各法律の成立をうけてこそ、行政と社会にあっては、一層、脱会後の社会復帰を阻害しないように、十分な配慮と脱会者に対する不当な偏見を起こさない対応を求める次第である。

七 付言するに、近時、住民票を受理しない市区町村が多くでているが、これは、信者らの被害者意識を強めただけでなく、家族らにとっても所在が不明になってしまう結果にもなっており、デメリットも大きかった。各市区町村においては、波野村や上九一色村の場合のように「乗っとられる」という状態にあるのでもない。右各法律が成立した際には、居住している事実がある限り、住民票も受理されるよう御願いする次第である。

八 決意
 私は、オウム集団が崩壊するまで、さらにその一人一人が教祖松本智津夫被告の精神的な桎梏を離れて現実社会に戻るまで、故坂本堤の遺志をつぎ、さまざまな対応を続けていく決意である。


資料12 特定破産法人の破産財団に属すべき財産の回復に関する特別措置法 1999.12.3成立、同月29日施行 

(目的)
第一条  この法律は、特定破産法人の破産管財人による破産財団に属すべき財産の回復に関し、特別の措置定めることにより、無差別大量殺人行為によって被害を受けた者の救済に資することを目的とする。

(定義)
第二条  この法律において「無差別大量殺人行為」とは、無差別大量殺人を行った団体の規制に関する法律(平成十一年法律第○○〇号。以下「規制法」という。)第四条第一項に規定する無差別大量殺人行為をいう。
2  この法律において、「特定破産法人」とは破産宣告を受けた法人で、その破産手続において確定した破産債権中に無差別大量殺人行為に基づく損害賠償請求権があるものをいう。
3  この法律において「特別関係者」とは、次に掲げる者をいう。
一  規制法第五条第一項の規定による処分を受けた団体で、当該処分に係る無差別大量殺人行為による損害賠償責任を特定破産法人が負担するもの。
二  前号に掲げる団体の役職員又は構成員
三  前号に掲げる者が構成員、役員又は職員の過半数を占める法人その他の団体
四  第二号に掲げる者が発行済株式の総数の過半数に当たる株式又は資本の過半に当たる出資口数を有する株式会社又は有限会社
五  第二号に掲げる者が代表者である法人その他の団体
六  第一号に掲げる団体の役職員又は構成員であった者で、その会体につき規制法第五条第一項の規定による処分があった後に退職し、又は脱退したもの
七  次に掲げる者であって、その所有する不動産が第一号に掲げる団体の活動の用に供されているもの
イ  第一号に掲げる団体の役職員又は構成員であった者
ロ 第二号に掲げる者が構成員、役員又は職員の過半数を占めていた法人その他の団体
ハ  第二号に掲げる者が発行済株式の総数の過半数に当たる株式又は資本の過半に当たる出資口数を有する株式会社又は有限会社
ニ  第二号に掲げる者が代表者であった法人その他の団体

(特別関係者の有する財産に関する推定)
第三条  特別関係者が有する財産は、特定破産法人の破産財団との関係においては、当該特別関係者が特定破産法人から法律上の原因なく得た財産の処分に基づいて得た財産であって、その価額は、当該処分に係る特定破産法人の財産の価額と同額であると推定する。

(特別関係者に対する否認権の行使に関する推定)
第四条  特定破産法人が、損害賠償責任を負担する最初の無差別大量殺人行為の後に、その財産を特別関係者に対して移転した場合には、その移転の行為は、特定破産法人が破産債権者を害することを知ってしたものと推定する。
2  特別関係者が特定破産法人の財産の転得者である場合には、その特別関係者は、転得の当時、それぞれその前者に対する否認の原因のあることを知っていたものと推定する。

(否認権の時効の特例)
第五条  特定破産法人の破産管財人による特別関係者に対する否認権行使に関する破産法(大正十一年法律第七十一号)第八十五条の適用については、同条中に「破産宣告ノ日」とあるのは、「無差別大量殺人行為を行った団体の規制に関する法律(平成十一年法律第○○号)第五条第一項ノ規定ニ依ル処分ガ効力ヲ生ジタル日(其ノ日ガ破産宣告ノ日前ナルトキハ破産宣告ノ日)」とする。

(破産管財人の権限)
第六条  特定破産法人の破産管財人は、公安調査庁長官に対し、特別関係者に対する財産又は不当利得の返還を請求するために必要な資料で公安調査庁が規制法の規定により得たものの提供を請求することができる。
2  破産管財人は、前項に規定により得られた情報を、特別関係者に対する財産又は不当利得の返還の請求以外の用に供してはならない。

付 則
1  この法律は、規制法の施行の日から施行する。
2  この法律の規定は、この法律の施行前に生じた事項にも適用する。


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