裁 判 記 録


● 1997年4月12日さまざまな法廷

 いろいろな事件の、いろいろな被告人の裁判で、重要だったり、意外な事実
が明らかになっている。でも、冷めやすいマスメディアにはもう出ていない。
週刊文春の江川紹子さん傍聴録、週刊ポストの佐木隆三さん傍聴録でも、書き
尽くせない。
 そこで、たびたび傍聴している人の記録から、法廷の様子を報告します。
上祐史浩被告(マイトレーヤ正大師)の法廷
  3月10日、懲役5年の求刑があり結末に近づいた。意外に知られていない
 が被告人は、実際は争っていない。起訴されたのは、熊本波野村の国土利用
 計画法達反での「偽証罪」「有印私文書偽造罪」である。上祐さんは、ここ
 で証人に偽証をさせたこと、不動産の売買代金が賃金だとする偽り書面に、
 偽造したサイン、印を使用したことを認めている。
  検察官の論告では「嘘のうえに嘘を重ねた執拗な犯行」「刑事責任を負う
 のは自業自得」だと述べている。
  何か、カルマの法則みたいだ。現世の責任は現世でとる外ない。「間達っ
 ていたら来世で責任を取るからいい」と考えても「オウムの来世」を人が信
 じない以上、逃げ口上になる。
石井久子被告(マハーケイマ正大師)
  3月6日、なんと山本まゆみ元被告(元キサーゴータミー正大師)に対し弁
 護側が、双子の出産状況を質間してきた。「一人目が出てからわかって、時
 間がかかって出てくるのかなと私の知識で知ってた。一日おいて二人目が出
 てきた。何か人工的なことをしなくてはと思ったが。出産後は全ての力を使
 い果した状態だった」という。
  危険すぎることが行われていた。オウムでは、付属医院で、在家信徒に出
 産させていたが、産婦人科医もおらず、しかも「立産」だった。赤ん坊の被
 害者は、坂本弁護士夫婦の子どもだけだったのだろうか。
K.H.被告
 3月3日、被告人の父が証人として出廷した。自動小銃密造事件である。長男、
 次男、三男と入信・出家したとのこと。
 「オウム真理教は、地下鉄にサリンをまいたのも事実ですし、自動小銃をつく
 ったのも事実です。この現実を直視して、一日も早く親元に帰ってくるごとを
 法廷から切望いたします」と。
  傍聴席には兄(次男)が来ていた。ただただメモをしていた。いつか新たな
 親子、兄弟関係ができますように。
  T三兄弟の三男は、川にはまって死んでしまった。S四姉妹は、訳の分から
 ない自称「脳機能学者」の所業により再び苦悩している。I兄弟はどこに行っ
 てしまったのか。
林郁夫被告(元クリシュナナンダ師長)
   2月28日、広瀬健一証人(元サンジャヤ菩長補)と、井上嘉浩証人(元アーナ
 ンダ正悟師)が証言した。井上証言では「坂本事件があって、岡崎さん(佐伯
 =元マハーアングリマーラ大師)がいなくなって爆弾を抱えてしまった。そこ
 にヴァジラヤーナの極論があって、自分が破壊するなら皆をポアしてやる、
 そう考えたのだと思う」「一方で武装化して行ったのだと思う」と分析してい
 た。
  林被告は、もう弁護側の立証の段階である。弁護側の動きが分からない。
 有効な情状弁護ができるのだろうか。
井上嘉浩被告(元アーナンダ正悟師)
  2月25日の法廷で、おっかけギャルによる「たまごっち事件」があったとの
 こと。ちょうど豊田亨証人(ヴァジラパーニー)が、青酸ガスについて、
 「自分としては結果的に人が死ぬかも知れないと考えていた」、爆弾について
 「場合によっては人を殺傷しうると考えていた」と証言した時、一人の若い女
 性がたまごっちを出し、その世話をしていたとのこと。
  警備は時計のことで持ち込みを許可したようだが、まったく冗談ではないこ
 の現実感のなさは、今も残る現役信徒やオウムに精神的に近いところに、
 少なくない人がいることを示す。
土谷正実被告(クシティガルバ師長)
  2月24日の法廷に、地下鉄サリンで亡くなった方の遺族三人が証言した。         
  娘をなくされた母が証言した。娘に「会いたかった一会いたかったけど、
 間に合わなかった」と証言した。知らせを受け、急ぎ乗ったタクシーから降りて
 センターラインを越えて病院に行ったが居らず、築地署で冷たくなった娘さんに
 会えたとのこと。「目をつぷってないで、私を見て下さい! 娘をなくした母の
 顔は、こんな顔をしています。私はあなたが死刑になることを望んでいます。
 娘を返して下さい」と証言した。この時、土谷被告は、ハッと目を見開き母を見
 ていた。
  妹を殺された高齢の姉が証言した。妹の救護に当たった人を探し、状況を聞き
 礼をしてまわったとのこと。「人の生命を何とも思わない人と同じ世界には住め
 ません。永久に刑務所にいれて私たちの社会に出さないで欲しい」と述べた。
  父を失った娘さんが証言した。「父は心の柱です」「大好きでした」「父に今
 年7月に決まった結婚を報告したかった、花嫁衣装を見て欲しかった」「許しま
 せん」と証言し、「ただ死刑にするなんて私、考えられない。サリンを作ったそ
 の両手を切り落としてください。その上で、生きてみて下さい人の手は、本当は
 、人を救うためにあるんでしょ。なんで人を殺すために使ったんですか」と述べ
 た。
  松本被告は、そして現役信徒は、「全てが煩悩だ、苦だ」とどうして言えるの
 だろうか。他の苦しみを自分の苦しみとしないとき、どうして解脱ができようか。