マイトレーヤ正大師こと上祐史浩ー地裁判決要旨

□彼が何をしたか、判決文により示します。不動産売り主名は○○と表示の匿名にしました。

1997年3月24日(東京地方裁判所刑事部)

主 文

被告人を懲役3年に処する。

未決勾留日数中300日を右刑に算入する。

訴訟費用は、被告人の負担とする。

理 由

(犯行に至る経緯)

オウム真理教(以下単に教団という。)幹部の早川紀代秀、満生均史及び青山吉伸らは、平成2年5月24日、○○○○から、熊本県阿蘇郡波野村所在の土地約15万平方メートルを代金5000万円で購入するに当たり、国土利用計画法所定の届出手続を潜脱するため、教団教祖松本智津夫の指示により、右土地の売買を、○○の負っている1500万円の債務の支払いを条件とする負担付贈与であると仮装するとともに、売買代金との差額3500万円を裏金として○○に交付した。間もなく、右土地取得について、国土利用計画法違反等の嫌疑で熊本県警の捜査が開始され、同年10月末ころ、青山、早川及び満生がいずれも同法違反の容疑で、同月11月上旬、教団幹部で経理を担当する石井久子が証拠隠滅の容疑で、相次いで逮捕され、青山、早川及び満生は、国土利用計画法違反、公正証書原本不実記載、同行使等の、石井は証拠隠滅の各事実で、熊本地方裁判所に公訴を提起された。

(認定事実の要旨)

被告人は、真実は、教団が本件土地を藤川から5000万円で購入したのに、右土地取得は、国土利用計画法に定める届出を要しない負担付贈与によるものであり、○○に交付した3500万円は融資金であるとの教団の主張を裏付け、青山、早川、満生及び石井の刑責を免れさせるために、

第一 早川、満生及び故村井秀夫らと共謀の上、平成元年10月29日ころ、静岡県富士宮市所在の第一サティアンと称する教団施設において、かつて教団信徒の○○○○が○○から入手していた、同人の署名捺印のある代理人選任書を利用して、その余白に、「オウム真理教殿 1年契約で3500万円の融資を受けました。平成2年6月19日」と記載し、右記載と署名部分を切り取って、○○作成名義の受領書一通を偽造した上、平成4年8月27日、熊本地方裁判所の右各被告事件の第17回公判期日において、情を知らない早川の弁護人らをして、これを真正なものとして、同裁判所に提出させて行使し、

第二 青山及び故村井らと共謀の上、平成2年11月中旬ころから平成3年1月初旬ころにかけて、大阪市淀川区所在のマンション居室等において、教団が○○に3500万円を貸し渡したこと等を内容とする「覚書」と題する書面を提出し、その○○の名下に、○○の印影を模して偽造した印章を押印し、同人作成名義の「覚書」一通を偽造した上、平成4年6月25日、右各被告事件の第16回公判において、情を知らない前記弁護人らをして、これが真正なものとして同裁判所に提出させて行使し、

第三 青山及び柴田らと共謀の上、右受領書及び「覚書」が、いずれも被告人らによって偽造されたものであることを認識している○○において、平成4年6月25日及び同年8月27日、右各被告事件の第16回及び17回公判期日において、証人として、宣誓の上、「満生が○○に対しも融資の覚書を紛失したので、領収書を書いてほしい旨依頼したところ、当初○○は難色を示していたが、最終的には承諾してくれた。その後、3500万円の受領書を作成してくれたと満生から聞いた。」旨虚偽の証言をし、もって、偽証し

たものである。

(量刑の理由の要旨)

被告人らは、教団の虚偽の主張を維持するようにとの松本の指示のもとに、○○に対し、捜査機関への供述を翻すように迫り、○○の押印のある書面を用いて受領書を偽造し、その印影をもとに精巧に偽造した印章を用いて覚書を偽造し、かつ、多数の専門家に依頼して、右偽造の印影と真正の印影と同一である旨の鑑定を行わせ、教団側の関係者全員に虚偽のストーリーを記憶させ、さらに予め作成した想定問答に基づき偽証を行うなど、組織をあげ、あらゆる手段を尽くして真実を隠蔽し、捜査及び公判の妨害を図ったものであって、刑事司法制度を歪める極めて悪質な犯行である。

被告人は、右犯行当時、教団の最高幹部の地位にあり、受領書の偽造を提案し、本件土地取得に関与した教団関係者らに個別に面接して、全体としての虚偽のストーリーを組み立てるとともに、各人にこれに沿った個別の虚偽のストーリーを記憶させ、自ら覚書の偽造を行い、前記印影の鑑定を指示し、偽証に当たっては、事前に模擬の尋問を行うなど、一連の犯行の立案と実行行為の中心的役割を果たしたものであり、本件を特徴付ける徹底した欺瞞性は、まさに被告人の関与の結果であると認められ、その刑責は重大である。被告人は、逮捕後、検察官に対し犯行の全容を詳細に供述していたが、公判廷においては、虚偽の主張を貫くよう指示した松本への信を繰り返し述べるなど、現実から逃避した態度を取り続けており、反省の様子は全く窺えない。

本件各犯行は、被告人らが、教団の虚偽の主張を維持するようにとの松本の指示に無批判に従ったものと認められること、熊本地方裁判所における前記各被告事件の終局前に本件各犯行が発覚し、最終的に裁判所の判断を誤らせるには至らなかったこと、被告人が捜査段階においては犯行について詳細な供述を行い、真相の解明に協力していること、これまで前科、前歴がないことなどを考慮し、主文のとおり量刑する。


上祐史浩ー高裁判決要旨

1998年2月10日(東京高等裁判所第10刑事部 裁判長米澤敏雄)

一 被告人

上佑史浩(昭和37年12月17日生)

二 事件名

偽証、有印私文書偽造、同行使

三 事案の概要

被告人は、オウム真理教教団の熊本県波野村の土地購入に関して教団幹部の青山吉伸、早川紀代秀、満生均史が国土利用計画法違反、公正証書原本不実記載、同行使罪で、また石井久子が証拠隠滅罪でそれぞれ熊本地方裁判所に起訴された事件について、同人らの刑事責任を免れさせるために、平成2年10月29日ころから平成4年8月27日までの間に、故村井秀夫らと共謀の上、○○○○作成名義の受領書及び覚書各一通を偽造し、これらを真正な証拠として同裁判所に提出行使し、また青山及び柴田俊郎らと共謀の上、同裁判所で柴田に虚偽の証言をさせた。

平成9年3月24日東京地裁で懲役3年の実刑判決。被告人控訴。

四 主文

本件控訴を棄却する。

当審における未決勾留日数中250日を、原判決の刑に算入する。

五 主たる控訴理由に対する判断

1 公訴権乱用の主張について。

青山らに対する国土利用計画法違反等の起訴自体が、熊本県及び捜査当局が一体となった極めて不公正な教団への対応の結果であり、また、本件当時、教団は国家権力により毒ガス攻撃を受けて告訴しているのに、捜査が行われることもなく闇に葬られつつあることに照らすと、国家に刑罰権がないことは明らかであるから、本件起訴は公訴権の乱用にあたり、公訴を棄却すべきであるという。

しかし、青山らに前記事件について起訴するに足りる嫌疑が存在したことは明らかであり、また、毒ガス攻撃云々の主張もそもそも荒唐無稽名者であり、その告訴と本件起訴は全く無関係である。論旨には理由がない。

2 事実誤認の主張について。

本件は、被告人を逮捕・勾留せんがために捜査機関により計画され、起訴された不公正なものであり、被告人の自白調書は、教団元幹部らの虚偽の供述を土台にし、教団に対する破壊活動防止法の適用を利用した捜査当局の強い圧力によって作成されたもので任意性ないし信用性がないから、被告人は無罪であるのに、有罪とした原判決には重大な事実誤認があるという。

しかし、記録を検討してみても、所論にいうような被告人の自白調書の任意性に疑問を抱かせる事情は認められず、また、自白調書の無いようは、具体的かつ詳細で、体験者でなければ述べ得ないような事実も多く含んでおり、早川などの原審公判証言とも細部にわたり符合し、さらに、印鑑及び筆跡の鑑定等による客観的裏付けもあり、その信用性に疑問をいれる余地はなく、原判決に事実の誤認はない。

3 量刑不当の主張について。

被告を懲役3年の実刑に処した原判決の量刑は、重過ぎて不当であり、刑の執行を猶予するのが相当であるという。

本件は、教団の行った国土利用計画法違反の土地売買を負担付贈与と融資であるとの虚偽の主張を構築し、これを正当化して教団幹部らの刑責を免れさせる目的で、教団を挙げて長期・計画的に偽造や偽証等の奇計を弄した犯行であり、その動機に酌量の余地なく、態様も巧妙悪質である。

被告人は、当時、教団代表者に次ぐ最高幹部の地位にあり、本件経緯のうち虚偽主張の取りまとめ、その筋書きの関係者への徹底、受領書偽造の提案、偽証証人に対する証言練習の実施等において中心的役割を果たしており、その刑責は他の共犯者と比較しても重く、原判決の量刑は相当である。


上祐史浩受刑囚ー弁護人の上告趣意書

原判決は憲法14条に違反している。

1 原判決は、弁護人の控訴趣意書の量刑不当の主張に対し次の通り判示している。すなわち「被告人は、当時、教団代表者に次ぐ最高幹部の地位にあり、本件では、(中略)まさに中心的役割を果たしたものであって、その刑責は他の共犯者と比較しても重いというべきである。」としたのである。

2 原判決は、オウム真理教に身を置いていること及びオウム真理教の最高幹部の地位にあることを刑事責任の加重事由と考えて、それを被告人の量刑を定める上で重要な事実して量刑に反映させ被告人の量刑を重くしている。

しかし、被告人がオウム真理教に身を置いていること即ち現在もオウム真理教の教義を信じていることをもって刑を重くすることは、被告人の信条を理由として他の国民との差別的な取扱いをなすものであって、法の下の平等を保障する憲法14条に違反していることは明らかである。

3 加えて、受領書に文言を書き込むなどして偽造に関与した満生均史、柴田の法廷での証言内容を検討して虚偽の証言を法廷で出す役割を担った早川紀代秀及び現実に虚偽の証言を行った柴田俊郎ら共犯者は、いずれもにオウム真理教を所謂脱会即ちオウム真理教の教義を捨てたものであるが、満生及び早川の両名は起訴さえ免れており又柴田にしても偽証罪で起訴されたもののその刑の執行が猶予されている。

被告人のもが起訴され刑の執行が猶予されなかったのは、唯一被告人が現在もオウム真理教の教義を信じている事実に基づくことは明らかであって、共犯者との著しい差は、原判決の被告人の量刑が法の下の平等に反していることを明白に示している。

二 原判決は量刑が著しく不当であるから、刑事訴訟法第411条第2項によって、原判決の破棄を求める。

1 本件土地取引が贈与と融資であるとのストーリー自体に無理があり、覚書の内容や受領書の形態にも不自然な点が多く、それが虚偽であることは早晩裁判所によって看破される運命にあったといって過言でない。青山自身「全く通らない主張」、「非常にばかげた主張」と認識しており、青山の弁護人らも前記主張に対して疑問を持ち、覚書を証拠として提出することすら反対した程であった。

従って、本件各犯行は、その形態において稚拙であり、現実に裁判所の判断を誤らせる可能性は(ほとんど)なかったというべきである。

2 ところで、被告人は、満生、早川、青山らの証言によると、「共通の事実認識」なるものを作成したとされている。仮に、被告人が本件に何らかの形で係わったことがあるとしても、そもそも、被告人は、本件土地取引については、当初は関与しておらず、○○らとの交渉には一切参加していなかったのであるから、その基礎となるものは満生、早川、青山らの作成したストーリーによる他はなく、自らが率先してストーリーを作り上げていくことは不可能であった。そして、当時、満生、早川、青山らは相互に、又、麻原との面談は保釈条件によって禁止されていたため、被告人がその間に入って話をまとめる役目を果たしたとだけと考えるべきであって、この点は、青山が「被告人の役割は、修行の手伝いであり、保釈条件で共犯者相互や麻原とは会えないから、間に入って話を決めただけである」と証言しているとおりである。

3 更に、本件が刑事裁判に関わる行為であったこと、そして、被告人は青山、満生、早川であったことからすると、どの様な物証を提出するか、どの様な内容の証言をするかについては、弁護士である青山の役割が最も重要であることは明白であって、事実関係を熟知している満生、早川の役割がこれに次ぎ、被告人の役割は「単なる話のまとめ役」にすぎないというべく、その役割を過大に評価した原判決の誤りは明らかである。

4 以上述べた事情の他、原審の控訴趣意で弁護人らが主張した事情、すなわち、被告人が捜査段階で自白しており、刑法第170条の規定により、偽証については、刑が減刑又は免除されるべきであること、本件各犯行が結果的には裁判所の判断を誤らせるには至らなかったこと、国土利用計画法違反事件での早川らの弁護人の適正な対応によって本件受領書や覚書の使用、偽証等が阻止できたこと、被告人が黙秘していることや現在もオウム真理教を信じていることをもって重く処罰すべきではないこと等を考慮すれば、原判決は、刑の量定が著しく不当であって、著しく正義に反することは明らかである。


上祐史浩ー最高裁決定 全文

平成10年(あ)第311号

決 定

本籍 ○○○○○○○○ 住所 不定

無 職ーーー上祐史浩ーー昭和37年12月17日生

右の者に対する偽証、有印私文書偽造、同行使被告事件について、平成10年2月10日東京高等裁判所が言い渡した判決に対し、被告人から上告があったので、当裁判所は、次の通り決定する。

主 文

本件上告を棄却する。

当審における未決勾留日数中40日を本刑に算入する。

理 由

弁護人尾崎裕の上告趣意のうち、憲法14条違反をいう点は、記録を調べても、原判決が被告人に対して信仰を持っているという理由で差別的取扱いをしたとは認められないから、前提を欠き、その余は、量刑不当の主張であり、被告人本人の上告趣意のうち、被告人の信仰を理由として差別的取扱いをしたとして憲法違反を言う点は、前記の通り前提を欠き、その余は事実誤認の主張であって、いずれも刑訴法405条の上告理由に当たらない。

よって、同法414条、386条1項3号、平成7年法律第91号による改正前の刑法21条により、裁判官全員の一致で、主文のとおり決定する。

平成10年7月16日

最 高 裁 判 所 第 三 小 法 廷

裁判長裁判官尾崎行信、

裁判官園部逸夫、裁判官千種秀夫、裁判官元原利文、裁判官金谷利廣