『鐘をならすのはだれ』
昔々、ある国に立派な教会がありました。その教会の塔には、お礼拝の時間を知らせる鐘がありました。
でも、もうずいぶん長くだれもこの鐘の音を聞いたことがありません。この鐘は、誰かが一番神様に喜ばれる捧げ物をした時に鳴るのだということです。
クリスマスの夜、ペドロと弟は教会のクリスマス会に出掛けて行きました。 外は雪がいっぱい降っていて、道も凍った寒い寒い夜でした。
しばらく行くと冷たい道路に何か黒いかたまりのような物があるのに気が付きました。
二人は何だろうと近よってみると、それは一人のおばさんでした。長い道を歩いたのと寒いのとで疲れて倒れてしまったのです。
このまま放っておいたらこごえて死んでしまうでしょう。
「おばさん!おばさん!」
ペドロは一生懸命そのおばさんをゆすりおこそうとしましたが、おばさんは目をつぶったまま、何も分からなくなっているようです。
ペドロは、しばらくじっと考えていましたが、思い切ったように弟に言いました。
「お兄ちゃんはこのおばさんを助けてあげなくちゃ!おまえは一人で教会にいきなさい」
「ぼく一人で?お兄ちゃんは行かないの?」
「うん、このおばさんをこのままにしておいたら凍って死んでしまうよ。お兄ちゃんはおばさんの体をマッサージして暖めてあげるんだ。気が付いたらポケットのパンを食べさせてあげるよ。おまえはクリスマス会がおわったらだれか大人の人をつれてきておくれ」
「でも、ぼく一人で行くのいやだなぁ」
と、弟が言いました。
「大切なたのみがあるんだよ。これはお兄ちゃんの宝物、たった一個の十円玉だよ。これをだれも見ていない時に、そっと教会のテーブルの上にささげてきておくれ」
と言って、弟の手にその十円玉を渡しました。弟が行ってしまうとペドロは涙が出そうになりました。
あんなに楽しみにしていたクリスマス会に行かれなくなってしまったからです。
「クリスマスツリーはいろいろな電球が光っていてきれいだろうなぁ。ページェントやキャンドルサービスどんなかなぁ。いきたいなぁ」
と、クリスマス会の事をいろいろ考えました。でも、そばにたおれているおばあさんを見るとペドロはすぐ元気をだして一生懸命お世話をしました。
冷たい手や足、体やお顔も自分の手が真っ赤になるほどこすってあげました。
そして、やっと気が付いて目をあけたおばさんの口に、ポケットからパンを出してすこしずつたべさせてあげました。
教会では、クリスマス会も終りごろになって、献金が始まりました。みんなは自分の差し上げたもので、あの鐘がなるといいなぁ、とドキドキしながら並んで一人ずつ前に進みます。
重そうなたくさんのお金をささげた人、ダイヤモンドや真珠をささげた人、金の塊をささげた人、でも鐘はなりません。
そこへ王様がきました。王様は、宝石のいっぱいついている金のきらきらした立派な冠をささげました。
みんなは、
「わぁーすごい!今度こそ鐘がなるよ!」
と耳をすましました。けれども鐘の音は聞こえてきません。風の音だけがヒューヒューなっています。
みんなのささげものがおわって、
「あーあ、今年もまた鐘が鳴らなかったね」
と話し合っている時、静かに静かにカーンカーンと、とてもきれいな鐘の音が聞こえてきました。
みんなはいっせいにテーブルの上を見ました。
そこにはペドロの小さい弟が立っていました。弟がたった1個の十円玉をささげた時、あの美しい鐘がなったのです。
捧げたのはたったの十円です。
でも、神様はこのペドロたち兄弟のした事をどんなにすばらしい金や銀よりも一番立派な捧げ物としてよろこんで下さったのです。
おしまい