『親切なサマリヤ人』
イエスさまは、いろいろな所で神様のお話をなさいましたが、よく「あなたの隣人」ということをおっしゃいました。
そこであるとき、「隣人ってだれのことですか?」とイエスさまに聞いたひとがいました。するとイエスさまはこんなお話をして下さいました。
ある日の夕方、一人のおじさんが、お仕事のため大事な荷物を持って旅をしていました。今のように車や電車がありませんから、どこへいくのにも歩いて行かなければなりません。
「暗くならないうちに早くお山の向こうに行かなくては」
とおじいさんは急いでいました。でもこの道はとてもいやな道で坂があったり、大きな岩がごろごろしていて、おまけに泥棒が出るというので、あまり人の通らない淋しい道でした。
だんだん日が暮れかかり、前を向いても後ろを見ても、誰もいないので、おじさんは心細くこわごわと急いで歩いていると、急に大きな岩の陰から三~四人の泥棒たちが出てきました。
そして、おじさんを殴ったり蹴ったり突き飛ばしたり、さんざんひどい目にあわせ、おおけがをさせて、荷物もお金も着ていた洋服も取り上げて、逃げてしまいました。
裸にされた上、あっちこっち殴られたので、傷だらけ血だらけになったおじさんは、とうとうそこに倒れてしまいました。
薄暗くなった山道は寒いし、傷は痛いし、おじさんは
「ああくるしい!助けてくれ!」
と叫びましたが、だんだん声も出なくなってしまいました。
そこへザックザックと人の足音が聞こえてきたので
「ああよかった、これで助けてもらえる」
とおじさんは思いました。やってきたのは、神様のご用をするえらい先生でした。いつも町の人たちに神様のお話をしてくださる人です。
「ああよかった!あの人ならきっと助けてくださるにちがいない」
おじさんはそう思って喜びました。
「助けてください・・・泥棒にやられたんです」
「なに!泥棒だって!これは大変だ、まだその辺に隠れているかもしれない。うろうろしていると私もやられるかもしれない、たいへんだ!」
といって、その先生は急いで行ってしまいました。おじさんはがっかりしました。このままでは死んでしまうかもわかりません。
傷はますます痛くなってきました。風が出てきました。ウォーウォーと、遠くで狼の鳴く声がきこえます。
「夜になったらにおいをかぎつけてやってくるかもしれない」
そう考えると、おじさんは怖くて体がぶるぶる震えてきました。
するとその時、また誰かがやってきました。
「今度こそ親切な人でありますように!」
とおじさんは目をつむってじっと足音を聞きながらお祈りをしていました。やって来たのはレビ人といって、誰よりも一生懸命勉強をして、みんなにいろいろなことを教えている偉い人です。
怪我をしたおじさんはもう苦しくて目も開けていられません。ただ、うーんうーんとうなっているだけです。その人はおじさんが苦しんでいる声を聞いて
「何だろう、どうしたのだろう」
と、そばにやって来ましたが、倒れているおじさんを見ると、
「これは大変だ、きっと泥棒にやられたのに違いない、私もこんな所でうろうろしているとひどい目にあうぞ、助けているわけにはいかない」
と、急いで逃げ出してしまいました。
おじさんはがっかりしてしまいました。
「あーあ、もうだめだ!誰も助けてくれないのか」
と悲しくなって死んだようになってしまいました。
またしばらくすると、遠くの方からロバの足音が聞こえてきました。今度こそは助けてもらえるかなと思いました。
ところがどうでしょう。そこに来たのはいつも喧嘩ばかりしている仲の悪い隣の国のサマリヤの人でした。
このおじさんの国ユダヤの人たちは、サマリヤ人たちをとても嫌って、いつも喧嘩をしたり、馬鹿にしていました。おじさんはがっかりしてしまいました。
自分たちがあんなに馬鹿にしているサマリヤの人がこの私を助けてくれる筈がないと思ったからです。もうあきらめてしまいました。
ところがそのサマリヤの人は、倒れているおじさんを見つけると、びっくりしてそばに駆け寄って
「おや、ひどい怪我だ、これはきっと泥棒にやられたのに違いない、かわいそうに、ひどい目にあいましたね」
と、自分の荷物の中から薬を出し、傷につけてあげたり、包帯をしてあげました。
「もうだいじょうぶですよ、しっかりしなさい」
「ありがとうございます」
おじさんは一生懸命お礼をいおうとしましたが、声が出ませんでした。サマリヤの人は、怪我をしたおじさんを自分のロバに乗せて町まで行き、宿屋に連れていきました。
そして一番やわらかいふとんに怪我をしているおじさんを寝かせてあげ、温かいものを飲ませてあげたりして、一晩中寝ないで看病しました。
そして次の朝早く、宿屋の人に言いました。
「私は用事があるので出掛けなければいけません。この人のお世話をお願いします。お金は私が払います」
といって出掛けて行きました。
イエスさまのお話はこれでおしまいです。
三人のうち、誰が一番神様に喜んで頂ける人でしょうか。その人が本当にこのおじさんの『隣人』なのです。